抗癌活性を持つ薬剤の脳内局所投与の臨床応用にあたって、「投与薬剤の脳内における分布の把握」および「霊長類における投与薬剤の最大耐用量の把握」が重要と考えられる。本研究はConvection-enhanced delivery(CED)法を用いたDrug delivery system製剤の脳内局所投与の安全性評価を目的とする。計画当初はドキソルビシンリポソームを使用する予定であったが、より粒径が小さく薬剤放出性に優れるドキソルビシン含有高分子ミセルを用いて実験を行った。(1)脳内薬剤分布の解析:正常カニクイザルの脳内にCED法によりドキソルビシン含有高分子ミセルを投与し、投与量(Volume of infusion: Vi)に対する分布容積(Volume of distribution: Vd)の関係を解析した。薬剤分布はガドリニウム含有高分子ミセルを混じることでMRIにて薬剤注入と同時にリアルタイムで行うとともに、ドキソルビシンの発する蛍光色素を利用し組織学的に評価した。結果、Viと直線的な比例関係のVdが得られ、MRIで計測したVdと組織学的に計測されたVdはほぼ一致した。また、リポソーム製剤のVdと遜色のない薬剤分布が得られた。(2)Doxilの脳毒性の解析:前述の脳内薬剤分布の解析と同様に正常カニクイザルの脳内にCED法によりドキソルビシン含有高分子ミセルを投与し、その後カニクイザルの神経学的異常の有無、体重減少の有無等の観察を行った。ドキソルビシンの投与濃度はラットにおけるパイロットスタディの結果を参考に決定した。結果、ドキソルビシン濃度0.5mg/ml以上において意識障害・麻痺の出現を認め、最大耐用濃度は0.5mg/ml以下と想定された。ドキソルビシン含有高分子ミセルに混じた1mMガドリニウム含有高分子ミセルによる毒性は認められなかった。
|