研究概要 |
前年の結果より、シュワン細胞において転写因子Sox10のターゲット分子としてS100Bが新たに同定された。S100B分子はカルシウム結合能を有する細胞内分子として、シュワン細胞に特徴的に発現することが古くから知られているが、その機能については未知であった。本研究の目的である、Sox転写因子群のシュワン細胞分化に於ける役割を解析する、という視点から、本年度はまずS100Bの機能解析を行った。 まず、S100Bの過剰発現系およびshRNAを用いた発現抑制系を確立した。そして、シュワン細胞初代培養系に遺伝子導入したのちに、細胞増殖および細胞分化を観察することでS100Bの機能を観察した。その結果、S100Bの発現抑制は細胞増殖を促進することが明らかとなり、この結果はS100Bが細胞増殖に対し抑制的に機能することを示唆していた。 培養細胞の実験からSox10およびそれによって誘導されるS100Bはシュワン細胞の増殖を抑制し、分化を促進することが予想されたため、個体レベルの発生過程でのSox10,S100Bの機能に着目した。胎生期から成体に至るまでラット坐骨神経サンプルを採取し、発現遺伝子解析を行ったところ、Sox10,S100Bともに髄鞘が形成される出生前後から発現上昇が見られ、その発現は成体になるまで維持されていた。このことはS100Bの発現が髄鞘形成およびその維持の時期に発現することで増殖を抑制し、分化形態を維持していることを示していると考えた。 以上の結果より再生医療などの場面でシュワン細胞による髄鞘形成誘導に際してはSox10,S100Bは共に高い発現レベルで維持されているべきである、という新たな知見を得ることができた。
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