研究概要 |
関節リウマチ(RA)の主たる病態である滑膜組織の肥厚は、構成細胞である線維芽細胞の異常増殖に起因する。本研究目的は、我々の以前の報告を含む様々な結果から、その異常増殖の誘因因子としてHsp70および転写因子NFκBの関与を想定し、これら因子が滑膜線維芽細胞の増殖をもたらす機構と、RA患者由来の滑液および滑膜線維芽細胞にHsp70の発現亢進がみられること、その発現亢進を抑制することが滑膜線維芽細胞の増殖制御に結びつくことを証明することにある。本年は、(1)培養滑膜線維芽細胞に外来Hsp70遺伝子導入によるHsp70の強制発現が、細胞に対していかなる作用をもたらすのか?(2)リコンビナントHsp70は、培養滑膜線維芽細胞に対してサイトカイン的作用を及ぼすのか?、(3)抗炎症的に作用することでRAの治療薬になりうると考えられている15dPGJ2は、培養滑膜細胞に対していかなる作用を及ぼすのか?、(4)培養滑膜線維芽細胞における熱ストレスによるHsp70の誘導は、炎症性転写因子の発現にどのように影響するのか?と言った点から、研究を進めた。結果、(1)滑膜線維芽細胞でのHsp70の強制発現は、本細胞のNFκBの活性化には関係しない。(2)リコンビナントHsp70は、滑膜線維芽細胞に対して、NFκBの活性化誘導をもたらすサイトカイン的作用が現時点では検出できなかった。しかしながら、詳細な検証を要すると考えている。 (3)15dPGJ2は、滑膜線維芽細胞に対してNFκB依存的なレポーター遺伝子の発現を抑制する一方で、HSF-1依序的なレポーター遺伝子の発現を亢進した。この結果は、15dPGJ2はNFκBが関係する炎症惹起に対して抑制的に作用するが、Hsp70の発現に対しては促進的に作用することを示唆している。(4)熱ストレスによるHsp70の発現誘導は、それに先行してp53とそのコアクチベーターであるPCAFを一過性に消失させた(Tanaka Y., et. al., Ryukyu Med. J. 26,113,2007)。この結果は、RAにおける滑膜線維芽細胞の異常増殖にはp53の機能異常によるHsp70の発現亢進が関係すると考える筆者の仮説に近いものである。今後、さらに詳細に検討を加える。
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