関節リウマチにおける病態の一つである滑膜組織の肥厚は、何らかの刺激による線維芽細胞の増殖に起因する。一方、滑液中には、刺激を受けた滑膜線維芽細胞から活性化したMMP(マトリクスプロテアーゼ)が分泌され、MMPが内腔に接する組織を分解することで関節部位の変性が惹起される。著者は、平成20年度において、Hsp70の強制発現が、滑膜線維芽細胞の増殖を制御することで病態の改善に結びつくという著者の仮説を、もとに、前年に続き検証してみた。しかしながら、滑膜線維芽細胞へのHsp70遺伝子の導入効果は観察されなかった。そこで、滑膜線維芽細胞の増殖の機構について再検討した。本細胞の増殖は、炎症の誘起と強く関連している。そこで、増殖・炎症に関与するとされる転写調節因子NFκBに焦点を当てた。NFκBはMMP遺伝子の転写を亢進するとされている。関節リウマチ同様に炎症性関節疾患である顎関節症患者由来の滑液についてMMPを調べた。滑液中のMMP活性およびMMPタンパクは、中期症状過程でMMP-3が有意に増大していた。興味あることには、MMP-3はチロシン残基がニトロ化されていた(本年Oral Maxillofac.Sur.に掲載)。ニトロ化は、一酸化窒素(NO)および活性酸素が結びついてできるパーオキシナイトライトが基質となるが、誘導型のNO産生酵素iNOSも又NFκBで発現が亢進されることから、培養条件下で機械的に炎症刺激したウサギ膝関節由来滑膜線維芽細胞について、NFκBのはたらきを検証した。本刺激はNFκBの活性化とともに炎症性プロスタグランジン合成の初発過程に関与するCOX-2(シクロキシゲナーゼ2)およびiNOSの発現を著しく亢進した。NFκBがこれら炎症性因子の発現に関与していることは、レポーターアッセイならびにNFκB活性化阻害剤を用いた系によっても傍証された(昨年12月の学会にて発表)。 よって、MMP-3の発現のみならずiNOS発現を介してNFKBが炎症性関節疾患に深くかかわることが明らかになった。
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