研究概要 |
本研究は、組織特異的な細胞増殖・分化を調節する空間依存性の微小環境が残存する可能性のある組織切片に着目し,前立腺がん細胞と切片基質間の相互作用を解析できる系を確立することを目的とした。ラット(SD rat, 7w, male)の各種臓器の凍結切片を作製し、その切片を担体としてヒト前立腺がん細胞株DU-145の培養実験を行った(実験計画1&4)。臓器担体により,高接着・増殖を示す担体(骨髄,肺など)と低接着・増殖を示す担体(中枢神経系,腎,肝など)の2群に分けられた。DU-145の樹立条件を考えると,これらの結果は必ずしも一致しないが,転移あるいは担体-細胞間のシグナル伝達の存在の可能性が示唆された。しかしながら,臓器により自己融解の速度が異なり,担体作製の時間を含めた条件が重要因子である可能性があり,この点についても再検討する必要があると考えられた。また,担体によって,増殖パターンが異なり,担体上に残る接着因子などのなどの発現様式に従っている可能性があり,今後の解析が必要である。がん細胞自体の明らかな分化を示す所見は得られなかった。一方,先行実験では,微小環境での細胞の分化誘導の可能性が証明されており,微小環境によるがん細胞の遺伝子発現制御が重要と考えられる。一つの可能性として、塩基配列の変化を伴わない遺伝子機能制御機構としてエピジェネティクス制御が関与している可能性がある。従って、今まで行ってきたエピジェネティクス制御の解析をこの系で次年度に行う予定である。予備的な実験であるが,組織切片を担体として利用したがん細胞の診断,転移予測などのがん研究また再生医療への応用可能性の端緒についたと考える。
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