研究概要 |
卵巣癌は、浸潤能、転移能が高く、抗癌剤長期投与による耐性化が原因となり、再発率も高く、治療困難な状況に陥る事が多い。本研究は卵巣癌の新しい治療法開発に向けた基礎研究として、卵巣癌幹細胞の分子機構を明らかにすることを目的としている。癌細胞において、自己複製と多分化能をもつ骨髄由来の幹細胞の存在が知られており、卵巣癌にも存在する。本年度は、卵巣癌細胞株8種類を使い、Haechst3334の取り込みの低いSP細胞(side population細胞)の分離を試みた。このうち、1種類(SKOV株)のみに0.4-1.0%のSP細胞が存在した。このSP細胞とnonSP細胞を培養し、再解析したところ、SP細胞には、SP細胞とnon-SP細胞が存在したが、non-SP細胞にはnonSP細胞のみであった。SP細胞は長期培養が可能であったが、non-SP細胞は短期で増殖を停止した。また、SP細胞はCD117, AC133などの幹細胞マーカーの発現も確認した。現在、造腫瘍能を解析中である。また、どのような分子がどのような機序で、卵巣癌の増殖、転移に関わるのか検討している。その特徴を明らかにすることは、新規治療の足がかりとなる。 また、卵巣癌の発生過程ではある特定の遺伝子変化はいまだに発見されておらずエピジェネティクな変化が重要だと推測されている。最も変異を受けやすい遺伝子の一つとしてインプリント(遺伝子刷り込み)遺伝子、8種類についても解析した。卵巣癌株では50%(4/8)に、卵巣癌組織では42%(31/74)にインプリントの破綻を確認した。現在、SP細胞とnonSP細胞でその相違点を確認している。卵巣癌幹細胞の特性を明らかにすることは、卵巣癌特有の運動性、浸潤性および転移能を増大する機構が明らかとなり、新規分子標的治療薬の開発に大きく貢献するにとが予想される。(693)
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