卵巣癌は予後が悪く、組織型が多彩であることが特徴的である。癌においてエピジェネティックな異常は、癌の発生や分化に重要であると考えられる。またCpGアイランドメチル化形質(CIMP)呼ばれる多数のCpGアイランドがメチル化され複数の遺伝子のサイレンシングが癌に関与するとされる。近年、ES細胞や組織幹細胞の研究成果をもとに、癌のエピジェネティクスを癌幹細胞の発生から段階的に理解する試みも進められ、癌幹細胞または癌前駆細胞においてエピジェネティックの変化が重要であると予想される。そこで今年度は癌に関連する14種類の遺伝子(DAPK、BMP2、RASSF1A、TMS1、p16、14-3-3gamma、CyclinD2、RIZ1、RAR-beta、CHFR、Wif1、SFRP1、SFRP2、SFRP5)プロモーター領域をCIMPとして卵巣癌臨床検体凍結標本64例、正常卵巣凍結標本8例を用いてMSP(メチレーション特異的PCR)法によってメチル化を検出した。CHIP陽性は1検体あたり3遺伝子以上でメチル化を検出した場合とした。卵巣癌組織では正常組織に比べ多くの遺伝子でメチル化が検出され、CHIP陽性の検体も顕著であった。組織型では明細胞腺癌においてCHIP陽性検体が多く検出され、漿液性腺癌では低頻度であった。以上より卵巣癌では特定の遺伝子群のメチル化が癌の発生・進展に関与すると示唆された。また、卵巣癌でのCHIPは組織型によって頻度がことなり、メチル化のパターンが癌の組織型や癌化機転に大きく影響するものと考えられた。これらのエピジェネティックな転写抑制機構は、卵巣癌幹細胞の持つ特徴の1つか、もしくは組織型によって異なる癌幹細胞が存在するのではないかと推察される。今年度の成果は更なる卵巣癌での癌幹細胞の探索と癌幹細胞を標的としたエピジェネティック治療への応用に寄与するものと考えられる。
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