研究概要 |
特発性の子宮内胎児発育遅延(IUGR)症例における胎盤9例と、母体合併症がなくかつ出生児異常も認めない、分娩週数と分娩方法をマッチングさせた正常症例の胎盤9例において、アディポネクチン受容体の発現を比較した。アディポネクチン受容体は2種類(R1とR2)存在するが、そのどちらも遺伝子レベルではIUGR胎盤において減少傾向が認められた。一方、タンパク質レベルにおいては、R2に関してはIUGR症例の胎盤が正常胎盤と比較し有意に発現低下を認めた。さらにアディポネクチン受容体の下流に位置すると考えられるAMPK、PPARαおよびp38MAPKの蛋白発現にいても検討した。総AMPKとPPARαの発現はIUGR胎盤で有意に低下していたが、AMPKの活性型であるリン酸化AMPKの発現はIUGRおよび正常胎盤ともに認めなかった。従って、AMPKは胎盤機能にとって重要な分子ではないことが示唆された。一方、総p38MAPKを基準にして活性型であるリン酸化p38MAPKの発現を比較したところ、有意にIUGR胎盤で発現が低下していた。また、胎盤絨毛細胞ではp38MAPKの下流に位置すると考えられるPPARγの発現は、IUGR胎盤において低下していた。PPARγは絨毛細胞の分化・血管新生に関与していることから、アディポネクチン受容体の数的低下がその下流のp38MAPK発現に影響し、さらにPPARγ発現低下をまねき、最終的にIUGR胎盤絨毛細胞の機能不全をもたらすことが示唆された。さらに、免疫組織染色によりそれぞれの蛋白局在を確認すると、R1,R2いずれもsyncytiotrophoblast(ST)細胞層に染色を認め、IUGRでこれらの染色性が低下していた。同様にp38MAPK、PPARγ両者ともに正常胎盤に比較しIUGR胎盤ではその染色性は低下していた。従って、IUGR胎盤におけるST細胞層でのこれら分子発現低下がIUGR発症に関して影響を及ぼしている可能性が示唆された。
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