特発性の子宮内胎児発育遅延(IUGR)症例における胎盤と正常症例胎盤において、アディポネクチン受容体の発現を比較した。アディポネクチン受容体は2種類(R1とR2)存在するが、そのどちらも遺伝子レベルではIUGR胎盤において減少傾向が、一方タンパク質レベルではR2でIUGR症例の胎盤が有意に発現低下を認めた。さらにアディポネクチン受容体下流に位置するp38MAPKの蛋白発現は、総p38MAPKを基準にして活性型であるリン酸化p38MAPKの発現を比較したところ、有意にIUGR胎盤で発現が低下していた。同時にp38MAPKの下流に位置するPPARγの発現も、IUGR胎盤において低下していた。PPARγは絨毛細胞の分化・血管新生に関与していることから、低酸素などの条件によりアディポネクチン受容体の数的低下がその下流のp38MAPK、PPARγ発現低下、最終的にIUGR胎盤絨毛細胞の機能不全をもたらすことが示唆された。さらにそれぞれの蛋白局在は、いずれも合胞体栄養細胞(ST)層に認め、IUGRでこれらの染色性が低下していることより、ST細胞層でのこれら分子発現低下がIUGR発症に関して影響を及ぼしている可能性が示唆された。これはラット子宮動脈結紮法でのIUGRモデル実験でも同様の結果となっているが、AMPKα蛋白発現がIUGRモデル胎盤で低下している点がヒトとは異なる点であった。続いて絨毛癌細胞株JARを用いてアディポネクチン添加実験を行ったところ濃度依存性にPPARγの遺伝子発現を認め、1%酸素(低酸素)培養下では培養開始48時間後からR1、R2、PPARγの遺伝子発現が低下した。このことからIUGR胎盤モデルである低酸素状態の比較的早期よりアデイポネクチン受容体はその影響を受け、下流分子の発現に影響を与えることが示唆された。
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