研究概要 |
手術療法と化学療法を終了してなお再発状態にある進行卵巣癌に対する新たな治療法を開発するための基礎的研究を行った.具体的な目的は卵巣癌の腫瘍マーカー内に癌隔絶抗原を求め,このペプチドアナログを利用して,患者のT細胞を活性化する事である.今年度の研究でCA125抗原特異的活性化T細胞の誘導と腫瘍障害作用を確認した. 倫理委員会で承認を受けた「卵巣癌に対する細胞治療に関する研究」に協力する事を同意された卵巣癌患者8人から末梢静脈血の提供を受け無名化して解析した.我々はすでに卵巣癌抗原CA125のアミノ酸配列MUC16の特定の領域を含む合成ペプチドアナログ(OVCA11)が,IL-4を産生する抗原特異的なCD4陽性T細胞を活性化することは確認している.今年度はこれを発展させ,抗腫瘍免疫として直接役割を果たすCD8陽性T細胞が活性化されるかどうかについて,合成ペプチドアナログ(OVCA11)刺激の16時間培養後のCD8陽性TNFα陽性T細胞の細胞数をフローサイトメトリーで解析したところ,8例中6例においてコントロールのペプチド刺激の場合と比較して平均4.1%の増加が認められた.増加のなかった患者は化学療法から1ヶ月以内あるいは全身状態が悪化している状態にあった.本年度の目標のひとつであったCA125抗原特異的活性化T細胞の継代培養は困難であったため,合成ペプチドアナログ(OVCA11)で刺激した患者T細胞(初代細胞)をHLAが一致する卵巣癌細胞と共に培養して,その細胞傷害活性を試験管内で観察した.なお,この卵巣癌細胞はTNFαによって細胞死が誘導される事がわかっている.その結果,コントロールのペプチド刺激の場合と比較して15%以上の卵巣癌細胞の細胞死が観察された.これらの研究成果は卵巣癌の腫瘍マーカー内に実際の治療に応用できる可能性があるアミノ酸配列が特定された事を示している.
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