研究概要 |
先天性遺伝性難聴は約2,000人に1人に発症し、非症候性遺伝性難聴の原因遺伝子で最も高頻度であるのがGJB2遺伝子変異である。GJB2遺伝子は蝸牛の音受容に必須なイオン(K^+、Ca^+)やエネルギー分子(ATP、IP3、cAMP)の通路として働く、ギャップ結合蛋白であるコネキシン26をコードする遺伝子である。ヒト患者の蝸牛病態解析は困難であるため、Gjb2優性阻害変異マウス(Tgマウス)を用いて電気生理学的および形態学的に解析し、疾患の病態を解明した。マウスの聴覚は通常生後11日より発現するが、TgマウスのABR、DPOAEでは生後の聴覚発育過程でほとんど反応を認めなかった。組織学的な変化として(1)Tgマウスではコルチトンネルの形成不全、(2)外有毛細胞神経終末形成不全、(3)コルチ器高の伸長不全、(4)コルチ器の断細胞面積増加が特徴的であった。コルチトンネルは柱細胞の細胞骨格の発達により内・外柱細胞の細胞間の開大が生じ形成される。Tgマウスでは柱細胞内のmicrotubulesの形成不全を認めコルチトンネル形成不全の原因と考えられた。外有毛細胞の神経終末は通常外有毛細胞を支持するダイテルス細胞の細胞質が退化することにより形成される。Tgマウスではダイテルス細胞が外有毛細胞周囲を占拠するため神経終末は形成されなかった。コルチ器の高さは通常コルチ器の成熟に伴い徐々に増加するが、Tgマウスではコルチトンネル形成不全のために一定であった。Tgマウスのコルチ器細胞断面積は有意な増加を認め、支持細胞の膨化を示唆した。
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