研究概要 |
魚類の視神経は軸索損傷を受けても再伸長し,視覚機能も完全に回復する。一方,哺乳類では視神経を損傷するとその細胞体である網膜神経節細胞(RGCs)はアポトーシスに陥り変性脱落する。本研究ではこの両種間の違いに着目し,i)神経損傷後のRGCsの細胞死、生存に関する分子の挙動,ii)金魚で見つかった神経再生分子の検索,iii)その再生分子のラット視神経損傷モデルに対する添加効果の3点について研究を行った。 [結果] 細胞死、生存シグナルについては視神経を傷害するとラットRGCsではIGF-Iが減少→リン酸化Aktの減少→Baxの増加→カスパーゼ3の活性増加という流れが明らかとなった。一方,金魚RGCsでは,視神経損傷後,IGF-Iの増加→リン酸化Aktの増加→Bc12の増加→カスパーゼ3の活性減少という流れが判明した。 ii)の金魚における視神経再生時に増加する因子として,先述のIGF-I,プルプリン,Na,K-ATPase α 3サブユニット,トランスグルタミネース(TG),一酸化窒素合酵素(NOS)が損傷後プルプリンを除いて(これは視細胞で増加),RGCsに増加することが判明した。 iii)として,上記再生分子のうち,IGF-IとTGのリコンビナント蛋白を成熟ラット網膜切片培養下に添加したところ,明らかにRGCsからの神経突起の誘導が観察された。 以上の結果から,金魚とラットの視神経損傷後の分子の挙動において,インシュリン様成長因子-I(IGF-I)が最も速く,金魚で増加し,ラットで減少することより,このIGF-Iが一方を再生に導き,他方をアポトーシスに導く重要な分子と考えられた。また,IGF-IやTGが金魚のみならず成熟ラット網膜の神経突起伸長を促進したことより,哺乳類の中枢神経再生に有効な分子であると位置づけられた。
|