老化にともない発症が増加する網膜疾患である加齢黄斑変性症は、欧米先進国における失明原因の第1位であり、我が国においても患者数が急増している。この疾患においては、黄斑部における視細胞のアポトーシスがみとめられ、その結果として、中心視力が著しく低下し、文字や顔などを識別できなくなり、患者のQOLの低下につながる。加齢黄斑変性症の発症機構は未だ不明であるが、大多数の発症に関しては孤発的であり、ある遺伝的素因の下、長年にわたる太陽光への眼の曝露などの種々の環境要因が発症をコントロールする「多因子疾患」であると考えられる。近年、この疾患患者の眼における鉄や鉄代謝関連タンパク質の分布が明らかとなりつつあり、鉄と加齢黄斑変性症との間における関心が世界的に高まっており、我々の研究の重要性の確かさを示すものであると言える。 計画に沿って、mRNAの非翻訳領域に鉄応答エレメント(IRE)を含む眼特異的な遺伝子の転写産物およびIREや遊離鉄イオンに結合する新たな眼特異的タンパク質の単離同定を試みているが、現段階ではそれらを見つけるに至っていない。しかし、この数年、眼における鉄の重要性が眼科領域でトピックとなっており、この研究についても同様に重要性が増している。本研究費の終了後も、翻訳段階において細胞質内遊離鉄イオン濃度変化による調節を担う特異配列(IRE)を持つ新規mRNAの発見に向けて、リコンビナントタンパク質の作成方法の改良や動物モデルの再検討などを重ねながら研究を継続し、論文として報告する予定である。
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