Wistar系ラットをエーテル麻酔下で上丘-下丘間で除脳し左後、頭頚部を分離して95%O2-5%CO2で飽和した4℃の人工脳脊髄液(ACSF)を灌流している手術槽内に移し、上喉頭神経(SLN)を周囲組織から遊離し切断して、SLNが分岐する迷走神経本幹を延髄側面まで遊離し脳幹との神経連絡を保ったまま脳幹とともに摘出した。標本は、吻側では橋-延髄境界部で、尾側は第8ないし第9頸髄付近で切断し、25〜27℃に保った人工脳脊髄液(ACSF)を灌流している記録槽内に移し実験を行った。SLN、舌下神経神経束および第4ないし第5頸髄前根にガラス吸引電極を装着し、前者は刺激電極、後者二者は記録電極として用いた。 ラット新生仔では上述の条件下で1分間に5〜10回程度の自発性呼吸活動が吸息相に一致して舌下神経や第4ないし第5頸髄前根に観察され、さらにSLNの電気刺激によって嚥下様活動が誘発された。そこで、自発性の呼吸活動を舌下神経から記録しながら、SLNの電気刺激を加え、吸息活動のパタン形成およびリズム形成に対する影響を解析した。その結果、吸息活動中にSLN刺激が加わると吸息活動が中断すること、ランダムに加えたSLN刺激に対して吸息活動がリセットされることが明らかとなった。すなわち、SLNからの入力は嚥下を誘発する一方で吸息活動のリズム形成およびパタン形成の両神経機構に対して抑制あるいはリセット効果があることが示された。さらに、リセットの様式は生後2日齢を境にして大きく異なり、SLN刺激から次に起こる吸息活動の開始までの潜時をヒストグラムにすると、0〜1日齢では吸息活動の周期よりも遙かに速い潜時で多峰性のヒストグラムを示すのに対して、3日齢以降では吸息活動の周期と一致した潜時で単峰性のヒストグラムを示した。この日齢では脳幹諸機能を司る形成機構が動的であることを示唆している。
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