本研究では、複数の機能中枢に組み込まれたニューロンを同定し、その活動様式変換の機序を解析して、哺乳動物の脳における多重的制御機構の本質を探る道筋を付けようというものである。対象としたのは、en bloc標本として新生仔ラットから摘出した脳幹で、脳幹の機能中枢として具体的に研究対象としたのは、吸息、吸啜、嚥下で、各活動を生起させた時に関与するニューロン群の同定を行った。ニューロン群の同定については、ニューロン活動時に細胞内に取り込まれる蛍光色素sulforho-damine 101を用いた。色素を灌流液中に投与し、1〜3時間にわたって活動を誘発し細胞内に取り込ませ、実験終了後、標本を固定して前頭断切片を作成し脳幹内での分布を観察した。その結果、吸息活動ではpacemaker neuronが存在するとされるpre-Botzinger complexから吻側の腹側延髄と舌下神経核に両側性に陽性細胞が多く観察された。吸息活動に加えてNMDAで吸啜活動を誘発させると、前記の領域に加えて両側の延髄内側網様体に散在性に陽性細胞が観察された。ま上喉頭神経刺激によって誘発した嚥下活動では弧束核と舌下神経核に陽性細胞が多く観察された。 一方、obexより吻側で舌下神経核を含む厚さ300μmのスライス標本を作製し、whole cell patch clamp法によって舌下神経運動ニューロンから、NMDA投与によって誘発されるリズム活動中膜電位変動および膜電流変動を観察した。その結果、新生仔では、成熟動物とは異なり、運動ニューロン樹状突起遠位端にあるNMDA受容体がリズム活動の維持に関与しており、それより近位に存在する抑制性アミノ酸受容体の活動によって運動ニューロン自身でもリズム形成しうることが示された。新生仔期にあっては上流からのリズム入力の強弱によって運動ニューロン自身にもリズム活動を補助するポリバレントな機能が存在することを示唆している。
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