研究概要 |
未分化間葉系幹細胞は,骨芽細胞や象牙芽細胞などへ分化する幹細胞として,歯科領域において重要な役割を果たす細胞集団とされている。本研究課題は,この未分化間葉系幹細胞から硬組織構成細胞への分化制御機構の一端を明らかにし,最終的にはティッシュエンジニアリングによる直接覆髄法の確立へとつなげようとするものである。平成19年度では,直接覆髄剤として使用されている水酸化カルシウムを用いて骨芽細胞への分化機構について解析を行った。哺乳一日齢マウスの頭蓋冠から未分化間葉系幹細胞を含む付着細胞を採取し,この細胞を水酸化カルシウム含有αMEMにて培養し,MTT assayにて増殖能を評価した。また、石灰化能についてはnodule assayにて検討を行った。その結果,水酸化カルシウムは,骨芽細胞の増殖には影響を与えないが,分化を促進することが明らかとなった。また、頭蓋冠から調整した付着細胞にカルシウム受容体が発現していることが確かめられ、水酸化カルシウムが細胞に与える効果はカルシウム受容体を介していることが示唆された。そこで,カルシウム受容体の下流に存在するErk1/2、p38およびJNKの活性化について調べると.これらのシグナル伝達分子が活性化されていることがわかった。一方で.硬組織の恒常性は硬組織の添加および吸収によって保たれており,直接覆髄において硬組織の吸収は良好な予後の妨げとなる。そこで,硬組織の吸収に関与する破骨細胞の分化についても検索を行った。その結果,gp130のシグナルが活性化するとTRAP陽性多核細胞が減少するといった破骨細胞の分化を抑制性に制御していることが予測される興味深い結果が得られた。gp130は,LIFを含むIL-6ファミリーサイトカインの共通の受容体として知られている。次年度は,カルシウム受容体シグナルおよびサイトカインシグナルの見地からより詳細な分化制御シグナルの解析を行う予定である。
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