研究概要 |
顎関節症(Temporomandibular disorders:TMD)患者では,補綴的・外科的加療が必要と認められない症例であっても約20%は難治性と言われている。同様の症例に同様の治療法を行ってもこのように治療効果が個人によって異なる原因のひとつとして,「ストレス処理効率の個人差」が挙げられる。一方,セロトニン移送蛋白(5-HTT)遺伝子のバリエーションとストレス処理効率の関係は数多くの論文で示されている。以上を学術的背景とし,本研究では「遺伝子型の違い」を用いた初期診断によりTMD治療に対して難治性の患者のスクリーニングを試み,TMD初期治療としての認知行動療法を確立することを目的とする。本研究ではヒトの遺伝子情報を取り扱うことになるため,本年度の研究遂行にあたり大阪大学ヒトゲノム研究審査委員会の承認を得た(許可番号163)。この研究審査申請に基づき,TMD治療の有効性に関する疫学的調査を行っている。すべての被験者に対し,初診時,1か月後,および2か月後に計3回の治療を行い,初診より3か月後に症状の確認を行っている。被験者の自覚症状をもとに,症状が消失したもの,症状の改善がみられたものを「一般的なTMD群」,症状が変わらないもの,症状が悪化したものを「難治性のTMD群」とし,難治性であった患者のストレス尺度の評価をアンケートにより行っている。また,初診時に患者の頬粘膜を綿球で拭き取ることにより頬粘膜細胞を採取し,各患者の頬粘膜細胞試料からゲノムDNAを抽出し,5-HTT遺伝子型のバリエーションについて検討を行っている。引き続き次年度も同様の調査により,被検者数を増やしていく予定である。
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