研究概要 |
顎関節症(Temporomandibular disorders: TMD)患者において,その治療効果が個人によって異なる原因のひとつとして,「ストレス処理効率の個人差」が挙げられる。本研究では,遺伝子型などの違いがこの治療効果の相違に関連している可能性を検討すること目的とし,心理学的ストレスモデルの構成から,情動ストレス,5-HTT遺伝子型,およびTMDの3者の関係についての考察を試みた。TMD患者および健常者における情動ストレス反応を,質問紙法および唾液中のストレスマーカー蛋白をELISA法で測定することによって分析を行った。TMD治療には認知行動療法を用いた。また,被験者における5-HTT遺伝子型を頬粘膜細胞由来DNAを用いてPCR法で解析する方法を確立した。ロジスティック回帰分析によりTMDの寄与因子を検討したところ,抽出された寄与因子は,唾液中コルチゾール濃度,ストレス対処行動点数,SCL-90-R身体花,SCL-90-R不安であった。これらの結果から,ストレスコーピングが不良であること,心理学的ストレス反応が強いこと,唾液中コルチゾール濃度が高いことがTMD罹患の寄与因子であることが示唆された。また,5-HTT遺伝子型の検討については,研究に協力していただける被験者が分析可能な人数に達していないため,この遺伝子型の相違がTMDに影響を及ぼすことを示唆する結果は得られていない。今後,引き続き同様の調査により,被験者数を増やし,これらの関連を検討していく予定である。
|