研究概要 |
体性幹細胞は患者本人から採取可能な幹細胞であり、臨床への応用が期待されている。近年、歯髄内にも体性幹細胞が存在することが報告された。歯髄幹細胞は抜去歯牙から採取可能なため、有望な細胞源として注目を集めている。しかしながら、体性幹細胞の多くは分化傾向を持つ前駆細胞で構成されているため、その可塑性は限定的であり、今後高い可塑性を持つ優れた幹細胞分画の選択培養法の開発が望まれる。本研究は、低酸素培養法に着目して、歯髄培養細胞からの幹細胞分画の選択培養法の開発を目指すものである。幹細胞は組織が障害を受けたときに障害部位に遊走し、組織新生に重要な役割を果たすと考えられている。したがって、分化細胞や前駆細胞と比較して、幹細胞は低酸素・低栄養などの細胞障害刺激に耐性を持つものと推測される。低酸素・低栄養状態は、培養中の酸素濃度、グルコース濃度、血清濃度を変化させることによりin vitroで再現できることが報告されている。本研究期間中には、無酸素・低栄養状態で生存した細胞と、通常環境下における培養細胞とのキャラクターの違いについて検討を行なった。その結果、分化誘導を行っていない細胞では、無酸素・低栄養下で脱分化傾向を示し、ES細胞マーカーであるOct-4, Sox-2の発現が誘導された。また、無酸素・低栄養下で生存した細胞は、それ以外の環境で培養された細胞と比較して、高い分化誘導能を持つことが明らかとなった。以上から、低酸素・低栄養状態は歯髄由来細胞の生存には好ましく、また無酸素・低栄養環境下では、幹細胞マーカーの誘導と可塑性の高い細胞の選択が可能である可能性が示された。
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