本研究は顎骨内での神経再建を目指す研究である。顔面損傷、特に交通事故外傷及び腫瘍摘出等により実質的な顎、顔面組織を欠損した患者は三叉神経末枝の切断や切除により、口腔内の諸組織及び顔面皮膚の感覚が喪失し、様々な痛みや麻痺感、またそれらを伴う不定愁訴に悩まされていた。さらに、知覚のみならず運動機能の障害により発音や嚥下、摂食障害も招来されている。これらを解決するために今回、我々の研究する顎、顔面領域における神経再生実験を行うことにより、従来高等動物では再生が不可能とされてきた中枢神経に最も近接した知覚及び運動神経を再生組織工学の手法で再生させることを目指す。すでに当研究室では大型動物(イヌ)において80mm欠損の坐骨神経再生を成功させており、本研究はそれらを発展させ、さらに微細で繊小な顎、顔面領域での神経再生が可能かどうかを試みるもので、世界的にも他に例を見ない実験である。 下顎神経再生実験後、12ヶ月長期経過症例に関して(3例)、神経生理学的検証、病理組織学的検査、サーモグラフィーによる検証を行い、下顎神経再生が良好に起こっていることを確認した。このことにより、ヒトへの臨床応用に関しても問題がないことが確認されたと思われる。人への臨床応用が可能となることにより、事故外傷や脳腫瘍切除等による外科的損傷等で下顎神経麻痺を起こした患者に応用でき、下顎神経麻痺等により招来しているC.R.P.S様症状を緩和し、それらの患者のQ.O.L.向上に貢献できるのではないかと期待される。
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