頭頸部領域に発生する悪性腫瘍の診断および治療を行う上で、前立腺癌におけるprostate specific antigenのような特異度および鋭敏度共に優れた腫瘍マーカーは存在しない。有用性の高い腫瘍マーカーの同定は二次予防の徹底による病変の早期発見や治療後の病変の残存および再発の診断において極めて重要である。本研究では、ヒト全遺伝子を解析対象としたマイクロアレイを用いて、頭頸部癌のみならずヒト癌共通の血液RNA腫瘍マーカーの同定を試みた。健常者および担癌患者血液3mlよりRNAを抽出し、マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行った。健常者血液には全く検出されず、癌患者血液にのみ共通して発現が検出される遺伝子を177種類同定した。つづいて、頭頸部癌、肺癌、胃癌、大腸癌、肝癌、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、骨肉腫、悪性黒色腫患者計30名と健常者および口腔癌治療後2年以上再発が認められない患者2名を含む計23名より同意の上、採血し、血液RNAを抽出し、177種類の遺伝子発現をマイクロアレイを用いて再び解析した。その結果、全ての担癌患者血液より177種類のうち7〜26種類の遺伝子発現が検出された。一方、癌治療後患者を含む健常者血液からは177種類いずれの遺伝子発現も検出されなかった。したがって、これらの遺伝子発現を血液RNAを用いて評価することにより、血液のみを用いた癌の早期検出および癌の再発リスク評価が技術的に十分可能であることが示唆された。
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