研究概要 |
口腔顎顔面領域に発生する悪性腫瘍の診断および治療を行う上で、前立腺癌におけるprostate specific antigen(PSA)のような特異度および鋭敏度共に優れた腫瘍マーカーは存在しない。有用性の高い腫瘍マーカーの同定は二次予防の徹底や治療後の病変の残存および再発の診断において極めて重要である。本研究では、ヒト全遺伝子(36,181種類)を解析対象としたマイクロアレイを用いて、口腔癌の血液RNA腫瘍マーカーの同定を試みた。健常者および担癌患者血液3mlよりtotal RNAを抽出し、マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、健常者血液(13検体)には全くその発現が検出されない遺伝子を588種類同定し、そのうち口腔扁平上皮癌患者血液(12検体)において発現亢進が認められた遺伝子を53種類同定した。実際に、T1舌扁平上皮癌患者では治療前の血液RNAでは53種類のうち2種類の遺伝子の発現亢進が検出されたが、治療後の血液RNAではいずれの遺伝子の発現も検出されなかった。さらに、53種類のうち20種類の遺伝子は胃癌、肺癌、大腸癌、乳癌、肝癌、腎癌患者の血液RNAにおいてもその発現亢進が検出された。すなわち、ヒト癌共通の血液RNA腫瘍マーカーの存在が確認された。以上の結果より、血液RNAを用いた癌の早期診断および再発評価が技術的に十分可能であり、血液RNA腫瘍マーカーによる癌のスクリーニング検査の実現の可能性が示唆された。
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