筋緊張低下を示す代表的な疾患である筋ジストロフィー患者では前歯部の重度の開咬を示すなど、口腔周囲筋の機能が顎顔面頭蓋の形態形成の一翼を担うと考えられている。すでに、我々は点突然変異を含むドミナントネガティブ型筋抑制遺伝子マイオスタチン(Myostatin: Mst)を過剰発現するトランスジェニックマウスにより咬筋や大腿二頭筋等の骨格筋量が約2倍増大することを報告した。さらに、Mstに特異的な合成二本鎖siRNA(Mst-siRNA)を構築し、20週齢のC57BL/6野生型雄性マウスの咬筋にアテロコラーゲンと混和したMst-siRNAを導入したところ、対照群と比較して顕著な骨格筋重量の増大、筋線維の肥大を認めたことを昨年度明らかにした。以上のことより、Mstに対するアテロコラーゲンを含んだsiRNAは個体レベルでの骨格筋量の調節に有用であると思われる。これらのことをふまえて、本年度は、筋組織の壊死を呈する筋ジストロフィー疾患モデルマウスmdx mouseの骨格筋に対するMst-siRNAの効果を検討することを目的とした。アテロコラーゲンと混和したMst-siRNAをmdx mouseの咬筋に導入したところ、野生型に対する効果と同様に骨格筋量の増加が認められ、またウェスタンブロット法によりMstの発現レベルが対照群と比較して抑制されているのが確認された。また、ラミニンα2抗体を用いた免疫染色により、筋線維の肥大が確認された。以上より、筋ジストロフィー疾患モデルマウスmdx mouseにおいても、Mstに対するRNAiは個体レベルでの骨格筋量の調節に有用であり、今後種々の筋疾患への治療に応用しうる可能性が示唆された。
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