舌痛症患者21人(男性3人、女性18人)の味覚閾値と舌味覚受容体(T2R)の遺伝子発現レベルを観察した。初診時、味覚閾値の上昇を認めたものは14人でこのうち11人に味覚受容体遺伝子発現レベルの低下を認めた。味覚閾値が正常範囲内にあったものは7人でうち味覚受容体遺伝子発現レベルの低下を認めたものは5人であった。21人中5人は味覚受容体遺伝子発現レベルが比較的良好であった。治療により舌痛が消失または改善したのは19人でうち12人で味覚受容体遺伝子発現レベルの上昇がみられた。7人は変化が乏しかったがうち5人は初診時から味覚受容体遺伝子発現レベルが比較的良好な症例であった。2人は初診時から舌痛改善時まで味覚受容体遺伝子発現がほとんど認められず舌痛の改善は著しいものではなかった。また舌痛の改善がまったく見られなかった2人も味覚受容体遺伝子発現がほとんど認められなかった。(結果と考察)舌痛症患者の多くに味覚閾値の上昇と味覚受容体遺伝子発現レベルの低下を認めた。これらは舌痛の改善とともに改善する傾向にあり舌痛症と味覚障害が関連することが多いことを示した。治療は、患者に舌に重大な異常の無いことを説明し、口腔粘膜上皮の再生を促進する薬物の投与を行い概ね有効であった。このことは舌痛症が痛覚受容体、味覚受容体の損傷を伴う局所の外傷に起因することを示唆している。舌痛の改善が良好でなかった4症例はいずれも不安やストレスの強い患者であり治療により味覚受容体遺伝子発現レベルが上昇しない症例であった。味覚受容体遺伝子発現レベルは変動しやすいが精神的ストレスは発現レベルの低下に関与しているものと考えられた。不安やストレスが強い患者においては従来用いられてきた抗不安薬が有効であるかもしれない。また検査結果と臨床症状に乖離がある症例ではより中枢に原因を求める必要がある。舌痛症の治療には明確な診断が要求されそのため味覚受容体遺伝子発現の観察は有用である。
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