本年度での質的研究の科学性とエビデンス性に関しての成果は、以下のようである。 (1)量的研究は客観的実証主義、質的研究は社会構築主義などの相互に異なる認識論を基盤としており、相互了解は困難である。しかし、構造構成主義に基づき、関心相関性の概念を導入することで解決可能であり、"Mixed Methods"などの認識論的基盤を与える。 (2)構造構成主義が基盤とする構造主義科学論によれば、「科学は同一性(構造や形式)の追求」であり、科学理論(モデル)は複数あってもよい。すなわち、現象間の関係を表すモデルは全て科学的であると考えてよい。したがって、質的研究から得られたモデルも科学的モデルとなる。ただし、目的とする現象を最も上手に説明できるものがよいモデルとされるので、現象に非適合的なモデルや共通了解の得にくいモデルは、自然淘汰される。 (3)テクスト解釈の妥当性は、「言語の信憑構造」に関係する。すなわち、ある現象、話し手、言語表現、聞き手の各間に信憑関係の存在、すなわち認識了解と意味理解の確信成立の程度に還元される。実際には、確信成立は到来的であり、意味不明な点は相互の確認行為により解消されるのが普通である。 (4)ソシュールの一般言語論から、研究者がテクスト解釈を「正しく」行うためには、対象者と研究者の頭の中の言語構造(ラング)が同一/同型であることが必要である。 (5)質的研究の結果の一般化は、統計学的一般化の視点からではなく、分析的一般化として関心相関的「継承」とアナロジーにより、継続的にまた他の研究者に活用され得る。 以上、本研究のこれまでの結論として、構造構成主義に基づけば、質的研究も科学として一般化可能なエビデンスをもたらすことができると考えられる。
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