与えられた情報を特定の/レールに基づいて変換する働きである認知操作の脳内メカニズムを、局所脳活動パターンと脳領域間機能的結合から明らかにするのが本研究課題の目的である。平成20年度はまずStroop課題を行っている際の健常被験者の脳活動をfMRIにより計測し、脳領域間機能的結合を解析した。側頭葉下部における課題関連領域と課題非関連領域の活動の差分を各試行ごとに計算することで感覚情報の干渉度合いを推定し、これに対して前頭葉が適応的な制御信号を発しているとの仮説を検証した。外側前頭前野では課題に関連した感覚情報の干渉が強ければ有意に強い活動を示し、一方、前部帯状回は外側前頭前野の信号を受けてより短い反応時間で行動を選択した場合に有意に強い活動を示した。 さらに研究代表者が独自に開発した磁気刺激誘発性脳電位追跡システム(TMS-EEG )を用いて、前頭前野で成立した認知操作の表象が後方連合領域に対して与える影響を解析した。Pro-Saccadeとanti-saccadeを組み合わせた眼球運動ルール切り替え課題を行っている健常人被験者の前頭眼野に磁気刺激を与えた。磁気刺激誘発性脳電位は被験者がこれから行おうとしている課題ルールを反映していると予想された。ところが実際には被験者がその直前に行った課題のルールを反映することが明らかになった。しかもこの傾向は直前にanti-saccadeを行ったときに強かった。一方、脳波にもとづく事象関連電位は被験者がこれから行おうとしている課題ルールを反映した。この結果は局所脳活動で表象される課題情報と、脳領域間ネットワークのシナプス結合強度に反映される課題情報が乖離していることを示しており、現在広く受け入れられている前頭葉の認知制御メカニズムに再考を迫るものといえる。
|