平成22年度に拙著(五百旗頭薫『条約改正史:法権回復への展望とナショナリズム』有斐閣、二〇一〇年)を刊行した。平成23年度中には、同書に対する書評やコメントを受け、議論する機会を得た。同書では、日本の条約改正交渉を規定した政策構想として、行政権の回復という概念を提起し、従来注目されてきた法権回復を、行政権回復の展開と挫折によって間接的かつより精緻に説明することを試みた。本研究計画の所産であり、中間的な成果のとりまとめといえる同書を客観的に再評価しえたことは、今後の研究の方向性を考える上で有益であった。 特に重要であったのは、研究協力者からのレスポンスであった。平成23年度は研究補助の最終年限であるため、研究協力者に研究成果の提出を要請し、全員の協力を得ることができた。その際、上記の拙著は、議論の出発点となり、批判の対象となった。特に研究会で議論が集中したのは、同書が法権回復の過程を直接に論じないことの功罪であった。その結果、例えば、同書が想定する行政権回復を軸とした時期区分を参照しつつ、それによって法権回復とそれに向けた国内改革のプロセスを再解釈する試みが、提示された。こうした議論は、さらなる共同研究が有益であることを研究代表者と研究協力者に痛感させ、共同論文集の刊行に向けた準備を本格化することができた。 研究代表者個人の研究としては、資料館での資料収集と図書収集により、具体的な行政領域における政策展開として税関への研究を深めた。また、日本の行政権回復要求に理解を示した条約国としてドイツに着目し、ドイツの国制と対日政策の関係についての検討に着手した。いずれも、本研究計画の次の展開に誌するテーマであると考えている。
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