本研究は、微細加工技術によって半導体中に微細人工量子系を作製し、量子系を通過する電流ゆらぎの相関を精密に測定することによって、エンタングルメントの生成と検出を目指すものである。本研究は、量子力学の基本原理に関わる実験としての意義と同時に、量子情報処理システムの実現に向けた必要不可欠なステップであると位置づけられる。平成19年度は、量子相関検出にむけた実験手法の開拓を行った。半導体人工量子系において量子力学的な状態を制御するためには、試料を希釈冷凍機によって極低温(100mK以下程度)に置く必要がある。また、その抵抗値は、典型的には10kΩ程度である。これらの値から、量子相関測定に必要な測定精度は10^<-29>A^2/Hz以下程度であることが試算される。我々は、そのような測定を可能とするために、1K程度の温度領域で動作する極低温電圧増幅器を新たに開発した。その測定精度は3MHzにおいて10^<-28>A^2/Hz程度に達している。この増幅器を利用して量子ポイントコンタクトという典型的な人工量子系を用いて(1)量子雑音の熱放射検出(2)半導体素子におけるスピン分極電流の生成を実証した。(1)は高周波の量子雑音の放出によって、量子デバイスの温度が上昇することを精密に実証したもので、これまでに行われたこと無い独創的な成果である。(2)は長年の謎である伝導度異常現象に関して、重大なヒントを与えるもので、既に多くの理論家の注目を集あている。これらの結果は、量子相関測定を行うための必須の要素技術を構成するものである。今後は、この手法を用いて、相関を持った電子流の創出、対称性の破れなど、エンタングルメント検出に必要な要素技術の開発を行っていく予定である。
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