本研究では、大電力を高速かつ高効率で変換・制御するSiCパワーエレクトロニクスの実現に向けて、SiC半導体の表面清浄化と理想MOS界面形成技術を駆使して、高誘電率絶縁膜との積層MOS構造を作製し、性能に優れたSiC-MOSFETを実現することを目的としている。平成19年度では、高密度プラズマ清浄化後のSiC表面電気特性の評価を実施するために、既存のプラズマ生成装置に改造を施し、清浄化処理後に連続して電極形成が可能な実験系を試作した。またSiCデバイス製造プロセスを構築する為、本年度の設備予算でデバイス加工用の反応性イオンエッチング装置を設計し、その導入を完了した。MOS界面の電気特性改善方法の検討については、窒素プラズマ照射と水素アニールの複合技術が、MOS界面の電気特性に及ぼす影響を詳細に評価し、これらの複合処理の効果とその物理的な起源に関する知見を得た。このMOS界面特性改善過程では、界面への窒素あるいは水素導入によって消失する界面欠陥のエネルギーレベルに差異が見られ、今後のSiC-MOS界面欠陥の物理的な起源を探る有効な手がかりになると考えている。さらに高誘電率絶縁膜を積層したSiC-MOSデバイスについては、SiCに特化した絶縁膜として研究を進めている窒素添加Al_2O_3絶縁膜の成膜条件の最適化を行い、膜中固定電荷を低減し、かつ絶縁破壊耐圧に優れた高誘電率絶縁膜の形成条件を確立した。この窒素添加Al_2O_3膜を薄い熱酸化膜上に堆積したAlON/SiO_2/SiC積層構造MOSデバイスの電気特性を詳細に評価し、AlONからの窒素拡散に伴うSiO_2/SiC界面特性の向上ならびにパワーデバイスの動作環境を想定した高温下でのMOS構造のリーク電流を大幅に低減することに成功した。
|