本研究では、SiC半導体が有する優れた材料物性を最大限に活用した、理想MOSFETの作製技術を確し立することを目的としている。平成22年度では、当該研究予算を活用して、既存の表面分析装置に超高真空仕様の表面処理チャンバーを増設することで、SiCやSiC-MOS構造、或いはSiC表面上の各種堆積膜の、その場光電子分光解析が可能な複合システムを構築し、SiC-MOSデバイス高性能化に向けたプロセス設計指針を得るための界面反応評価実験をスタートした。一方、SiC-MOSデバイス用の高誘電率ゲート絶縁膜として提案している窒素添加アルミナ(AlON)について、トランジスタの閾値シフト等の信頼性劣化ならびに絶縁特性の観点から窒素濃度の最適化に関する詳細な実験を完了し、適切な窒素添加プロセスによってMOSデバイスへのストレス印加時の欠陥生成を抑制できることを示した。また昨年度から継続している放射光光電子分光測定によるSiO_2/SiCエネルギーバンド構造の評価については、カーボン面に形成したMOSデバイスの解析に加えて、熱酸化の進行に伴うMOS界面での欠陥生成、後熱処理や水素導入に伴うエネルギーバンド構造の変化について検討した。その結果、界面欠陥によってバンド構造は変調されるものの、カーボン面では本質的に伝導帯オフセットが小さく、信頼性低下が避けられないことが明らかとなった。本結果は、カーボン面の熱酸化SiC-MOS構造では、信頼性を確保することが困難であることを意味する。さらにSiC-MOSキャパシタの電気特性評価から、酸化膜中及びMOS界面に残存するカーボン不純物が、その後のデバイス製造工程での紫外線照射より活性化し、顕著な特性劣化を引き起こすことが明らかとなった。これらの実験結果は、当該研究課題にて提案する高誘電率絶縁膜を有した積層ゲートスタック構造の優位性を示すものである。
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