研究概要 |
四季の環境の変化に適応できるか否かは生物にとって死活問題である。したがって動物は日長の変化に応じて繁殖、換羽(毛)、代謝、渡り、冬眠などの生理機能や行動を積極的に変化させながら環境の変化に適応しており、これを光周性という。ウズラは様々な動物種の中で光周性研究の最も優れたモデルであることが知られていた。研究代表者らはウズラを用いた従来の研究において光周性を制御する鍵遺伝子(DIO2)を同定し、視床下部内側基底部(MBH)における甲状腺ホルモンの局所的な活性化が光周性の制御に重要であることを明らかにした(Yoshimura et al., Nature 2003)。本研究ではゲノムスケールの包括的遺伝子発現解析により、ウズラの光周性を制御する遺伝子ネットワークを明らかにした。つまり、日長(明期)の延長によって、まず下垂体隆起葉(pars tuberalis)において甲状腺刺激ホルモン(TSH)が合成、分泌されることが明らかになった。さらに下垂体隆起葉から分泌されたTSHはMBHに存在するTSH受容体に結合すると、cAMPシグナル伝達経路を介してDIO2の発現を制御することが明らかになった。TSHは下垂体前葉から血中へ分泌されるホルモンであり、その名が示すように甲状腺に作用し、甲状腺ホルモンの合成や分泌を促すホルモンとして知られていたが、本研究から、下垂体隆起葉で合成されるTSHは脳に作用し、光周性を制御するマスターコントロール因子として働いていることが明らかになった。
|