現在、臨床現場において様々な多剤耐性菌が出現し、耐性菌感染症は医療従事者が直面する重要な問題である。これまでに私は、病原細菌に数十個もの薬物・毒物を排出する輸送体が存在することを明らかにした。さらには、サルモネラが実際に宿主の中で毒性を発揮するためにも輸送体の存在が必須であることも見出した。これら輸送体は生理的基質が未知という点で、「オーファン輸送体」であると考えられる。本研究では、「オーファン輸送体」が担う生理機能を解析し、細菌感染における輸送体の役割を明らかにする。また、輸送体を阻害することにより、細菌の薬剤耐性と病原性を同時に軽減させることのできる新薬を開発することができるか、可能性を探る。 これまでの解析の結果、サルモネラ病原性発現にオーファン輸送体が関与していることを見出したが、どのような機構でこれら輸送体が病原性発現に関与しているのかは明確ではなかった。宿主環境中での輸送体の役割について検討した結果、サルモネラのオーファン輸送体は、宿主免疫応答を回避するために必要であることが分かった。輸送体遺伝子欠損株は宿主血清や抗菌ペプチドへの耐性が大幅に減弱しており、また、野生株に比べて、マクロファージからのTNF-α誘導能が上昇していることが分かった。解析を進めた結果、オーファン輸送体がサルモネラリポポリ多糖(LPS)の糖鎖伸張に関与していることを突き止めた。この輸送体は病原性を軽減させることのできる新薬ターゲットとして期待される。 研究成果は、輸送体を理解する上で重要であるばかりではなく、多剤耐性菌感染症を克服するのにも有用性をもつものであると評価され、文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞した。
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