研究課題
本年は、まず難治性白血病の原因遺伝子Evi-1の機能解明を行った。DNAのメチル化やヒストン修飾などのエビジェネティクスが造血器腫癌の発症・進展に重要であることが知られているが、われわれはEvi-1が複数のヒストンメチル化酵素(HMT)と結合することを見出した。また、Evi-1-HMT複合体がHMT活性を有することを確認した。さらに、PAI-1プロモーターを用いたレポーター解析を行い、Evi-1によるTGF-βシグナル阻害にこれらのHMTが重要であることを明らかにした。Evi-1は転写制御因子P/CAF,CtBP,HDACやクロマチンリモデリング因子BRGlなどと結合し、複合体を形成して転写制御を行うと考えられている。今回の結果から、Evi-1による転写制御にヒストンメチル化修飾も重要な役割を果たすことが明らかとなった。これと並行して、白血病において変異がみられる転写因子AML1の機能欠失が白血病発症に果たす役割を解析した。マウス骨髄細胞に白血病遺伝子MLL-ENLを導入しマウスに移植すると白血病が発症するが、AML1を欠失する骨髄細胞にMLL-ENLを導入すると、白血病が対照より早期に発症した。さらに、純化した造血幹細胞にAML1欠失を誘導しcDNAマイクロアレイを用いたトランスクリプトーム解析を行うことにより、造血幹細胞におけるAMLlの転写標的ネットワークの同定を試みた。データベース解析との組み合わせにより、AMLl欠失によるNF-κBシグナルの活性化が明らかとなった。すなわち、AML1の欠失はNF-κB経路を介して白血病幹細胞活性に関与する可能性が示唆された。これらの成果は、Evi-1やAML1がエビジェネティツクな制御や細胞内シグナルの制御を介して白血病幹細胞活性に関与することを示すものであり、治療標的の同定による白血病の克服においても重要な知見である。
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