隅角線維柱帯組織を含めて前眼部組織の多くの領域は発生学的に、神経堤細胞で構成されており、神経堤細胞の分化誘導異常が発達緑内障の発症に密接に関わっている。我々は、ヘパラン硫酸の合成酵素EXT1を神経堤細胞でコンディショナルにノックアウトしたマウス(Wnt1-EXT1-null)を作成し、その解析をおこなった。神経堤細胞でCre酵素を発現させるためにWnt1-CreトランスジェニックマウスをEXT1floxマウスと交配させた。Wnt1-EXT1-nullの前眼部組織では、隅角形成不全、角膜実質の菲薄化、角膜内皮の欠損、虹彩の一部欠損がみられ、Peters奇形と呼ばれる発達緑内障の病型で好発する奇形を伴っていた。神経堤細胞をLacZにて標識し、変異マウスで前眼部組織の神経堤細胞の遊走、到達部位を評価したが、ターゲット部位への到達には、目立った異常はみられず、組織内における分化能の異常による奇形であることが推測された。また、その表現型は、Tgfβ2のノックアウトマウスおよびTGFβ receptor type2の遺伝子変異マウスと酷似しており、ヘパラン硫酸はTGFβ2と結合することがELISAにて示された。また、TGFβ2の下流シグナルであるSmad2のリン酸化がノックアウトマウスでは低下しており、緑内障原因遺伝子である転写因子FOXC1とPITX2も低下した。ヘパラン硫酸の発現異常は、TGFβシグナリングを介して、神経堤細胞の分化誘導に不可欠な転写因子の発現を低下させ、発達緑内障に酷似した表現型の前眼部奇形を生じさせることが示された。
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