線維芽細胞の活性化が、濾過手術の成績を悪化させる因子であることを臨床試験であきらかにするために、結膜における手術瘢痕によって線維芽細胞が活性化している緑内障患者と結膜に瘢痕がなく内眼手術歴のない緑内障患者の手術成績を比較する臨床試験をおこなった。我々のおこなった臨床試験では、結膜に瘢痕があり内眼手術歴のある緑内障患者群のほうが、濾過手術の成績が有意に悪いことがあきらかになった。さらに、緑内障患者の濾過手術直前に採取した前房水のタンパク組成をmultiple ximmunoassayでスクリーニングしたところ、monocyte chemotactic protein-1(MCP-1)が内眼手術のある緑内障患者の前房水において、有意に発現上昇していた。白内障患者の白内障手術術前と術後1年後の前房水におけるMCP-1の濃度を比較したところ、21例の患者全例で術後にMCP-1の濃度が上昇していた。 さらに、MCP-1をウサギの濾過手術モデルに投与したところ、濾過胞に単球、マクロファージの浸潤をみとめた。これらの炎症細胞は、TGF-ssを分泌し、線維芽細胞を活性化させ、線維芽細胞を筋線維芽細胞へと形質転換させる。一方、ヘパラン硫酸を投与すると、濾過胞の退縮が抑制された。ヘパラン硫酸はbinding assayにて、TGF-ssと結合した。線維芽細胞の細胞内タンパクを用いたウェスタンブロッティングをおこなったところ、ヘパラン硫酸の投与は、TGF-ssの下流シグナルであるSmad2のリン酸化を抑制した。 以上の結果によって、緑内障患者における濾過手術の成績は、内眼手術の既往歴による線維芽細胞の活性化が重要なリスク因子であり、その分子メカニズムを明らかにすると共に、ヘパラン硫酸の投与によって、その問題点を改善する可能性を示すことができた。
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