知覚的に捉えた他者の身体運動と自分の身体運動のイメージを適切に対応づける能力、「身体マッピング」は、他者の行為の認識、共感、さらには言語に代表されるジンボル使用など、ヒト特有の認知機能の基盤とみなされる。ヒトは生まれつき、自分の目では確認できない他者の表情を模倣できるといわれ、ヒトの生得的有能性を示す証拠として位置づけられている。しかし、新生児の身体マッピングを可能にする神経学的メカニズムや、その発達のプロセスについては、いまだ実証的な解明がなされていない。 20年度は、身体マッピング能力の個体発生的および進化史的起源を検討するため、ヒトとチンパンジーを対象として、1) 胎児期における自己身体についての知覚能力、2) 新生児期における聴覚-運動マッピング、を検討した。1)では、ヒトおよびチンパンジーの胎児の行動を4次元超音波画像診断装置(胎児の身体の動きをほぼリアルタイムに近い状態で立体的に映し出すことのできる装置)を用いて観察した。身体成長に関しては、受精後16週齢頃までは、チンパンジーとヒトの成長速度はほぼ同じであり、その後徐々に差が生じ、チンパンジー胎児の方が相対的に小さくなることが明らかとなった。運動に関しては、ヒト胎児と同様にチンパンジー胎児も口を開閉する、手を口に入れるなどの行動が見られた。こうした行動の初出時期は、ヒトの胎児とほぼ同じであった。2) では、ヒトとチンパンジーの新生児を対象に、母親の声を聴覚刺激として口唇部の反応を調べた。新生児になじみのある声(同種の母親声)となじみのない声(同種の見知らぬ女性の声)とを提示し、そのときの口唇部の活動をサッキングを指標として計測、比較した。その結果、ヒト新生児は、母親の声が聞こえた場合により活発に口唇部を動かした。他方、チンパンジー新生児については、ヒトのような明確な反応は認められなかった。
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