生体神経細胞やシナプスの機能を再現する電子回路をシリコンニューロン、シリコンシナプスと呼ぶ。本研究の目的は、研究代表者が提案した、神経細胞モデルに関する数理的知識を駆使した設計法により、従来の設計手法に比べて生体に近くコンパクトなシリコンニューロン、シリコンシナプスを実現し、生体内で運動パターンを生成しているCPGと呼ばれる比較的小規模な神経ネットワークに類したシリコン運動パターン発生器を実現することである。このような運動パターン発生器を構築するためにはバースト発火が可能なシリコンニューロンが必要であるため、方形波バーストと呼ばれるバースト発火を行うシリコンニューロン回路を設計した。これは、ホモクリニック分岐の一種に起因するヒステリシスを持った興奮性の系に、細胞内カルシウム濃度に依存したカリウム電流をモデルとする時定数の大きな負のフィードバック電流を導入した構造になっている。当初、以前の研究で開発したシリコンニューロン回路をベースに設計したが、これは積分器に電圧モードの回路を用いていたため、リーク電流の実装のために追加で電圧-電流変換回路が必要となり、数理的にも回路的にも複雑となっていた。そこで、新たに電流モードの積分器を用いた回路を設計し、電圧モードの回路と同時にVLSI試作を行った。試作の結果、動作の安定性と回路のシンプルさのバランスを考慮すると電流モードの積分器を用いた方が有利であるとの結論に達し、今後のシリコン運動パターン発生器には電流モードの回路を用いることとした。また、シリコンニューロン回路に与えるパラメータ電圧をVLSIに保持するアナログメモリについても他研究室で利用されている回路をチューニングして実装し、数十ミリ秒以上十分な制度でアナログ値を保持できる回路を実現した。
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