神経変性疾患において、原因蛋白質の凝集化とそれが細胞にもたらす影響には不明な点が多い。本研究では、ポリグルタミンと酵母プリオンSup35を融合させたレポーター系を用い、神経変性疾患の中でも原因蛋白質の凝集化(アミロイド化)が病態に深くかかわるハンチントン病に着目し、ハンチントン病の病態解明、および、新規な機能性アミロイドやプリオン蛋白質の同定を目指した。 異常に伸長したポリグルタミン鎖を含むハンチンチン蛋白質断片は凝集条件によって、異なる構造をもつアミロイドを形成し、その構造に依存して細胞毒性が異なることを見出した。また、そのアミロイドの構造多型は、ハンチントン病モデルマウス脳由来のアミロイドにおいても観察され、線条体のアミロイドがより高い細胞毒性を示したことから、ポリグルタミンのアミロイド構造が疾患の部位特異性を決める一つの要因になっていることを示した。一方、機能性アミロイドに関しては、遺伝学的スクリーニングなどにより、酵母プリオンSup35のプリオン状態[PSI^+]を誘導する蛋白質を複数同定した。その中には、凝集しやすいグルタミン・アスパラギンに富むドメインを全く含まない、または、ごくわずにかにしか含まないものが存在した。これら蛋白質はin vitroできれいなアミロイド線維を形成し、in vivoでも、ポリグルタミンやSup35と共凝集することが明らかになった。また、これら蛋白質は、少量のポリグルタミンアミロイドの存在下で、その凝集化が加速された。さらに興味深いことに、同定した蛋白質の一つは新規な酵母プリオンであることが示唆された。以上から、本研究で用いたスクリーニング系は機能性アミロイドの探索に優れており、このような共凝集化は生体内で様々な機能性アミロイドを作り出す源になっていることが明らかになった。
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