ポリエチレンテレフタラートなどの高分子材料に優れた生体活性(アパタイト形成能)を付与できれば、同材料は生体内で骨と安定に結合する人工靭帯等として有用である。本研究では、種々のクラスターイオンを種々の高分子基板に照射することにより、クラスターイオンビーム照射による高分子の表面構造変化を明らかにし、さらにクラスターイオンビーム照射基板のアパタイト形成能を調べることを目的とする。 平成19年度は、定量的・基礎的に実験を行うため、種々の条件(加速電圧3〜9kV、ドーズ量1×10∧<15>ions/cm∧2)で酸素(O_2)クラスター、O_2モノマーあるいはO_2クラスター・モノマー混合イオンビームをポリエチレン(PE)基板に照射した。得られた試料の親水性を接触角測定により評価し、同試料の表面構造変化をX線光電子分光法により調べた。さらにこのようにして得られた試料をヒトの体液の約1.5倍の無機イオン濃度を有する擬似体液(15SBF、 pH7.40、36.5℃)に浸漬することにより、試料のアパタイト形成能を評価した。その結果、O_2クラスターあるいはO_2モノマーイオンビームのみを照射したPE基板では、基板の親水性はやや向上しただけだったのに対し、O_2クラスター・モノマー混合イオンビームを照射したPE基板では、親水性は著しく向上し、水との接触角は約100°から約10°にまで低下した。また、未照射PE基板は1.5SBF中に7日間浸漬されてもその表面にアパタイトを形成しなかったのに対し、O_2クラスター・モノマー混合イオンビームを照射したPE基板はアパタイトを形成した。また、アパタイト形成能は、加速電圧6kVのときに最も高くなった。以上より、適度な条件でO_2クラスター・モノマー混合イオンビームを照射すれば、高分子材料にアパタイト形成能を付与できることが明らかとなった。
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