近年、過剰摂取が懸念されているリンの生体内における代謝調節機構の解明と生活習慣病との関係を明らかにするため、リン流入の入り口となるリン酸トランスポーターの活性調節機構の解明とその下流に生じる生体内シグナル伝達機構を明らかにし、生活習慣病との関連について検討することを目的とする。本年度は、(1)細胞内シグナルの分子実体の同定および(2)リン負荷およびリン制限時のFGF23/Klotho経路およびFOXOシグナル経路調節機構の解明について検討した。(1)では、リン酸トランスポーター複合体についてBlue-Native PAGEを用い分離し、LC-MS/MSを用いた質量分析により分子同定を試みた。その結果、腎臓ではリン酸トランスポーター複合体は少なくとも2種類存在し、細胞外リン濃度の変化の応じて複合体間を移行し、細胞膜に留まるか細胞内へ輸送されるか選別されていると考えられた。また、血管内皮細胞には異なるトランスポーターが存在することを明らかにし、次年度以降に詳細に解析する予定である。(2)については、血管内皮細胞を用い、細胞外リン濃度の変化に応じて変化する細胞内シグナルについて網羅的な解析を試みた。詳細な検討は次年度以降に取り組む予定であるが、現在までに細胞外リンの流入が、PKCを活性化すると共に、FOXOシグナルに関与するAkt/PKBの活性を抑制することを見出した。これらのシグナルは、NAD(P)Hオキシダーゼを活性化し、酸化ストレスを増大させると共に、血管内皮細胞の主要な機能である一酸化窒素(NO)産生の鍵酵素であるeNOSの活性化を抑制し、血管内皮機能障害を惹起することを明らかにした。今後は、本年度得られた成果をより詳細に検討すると共に、新たに動物やヒトを対象とした試験に取り組み、リン代謝と生活習慣病発症との関係について明らかにする予定である。
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