近年、過剰摂取が懸念されているリンの生体内における代謝調節機構の解明と生活習慣病との関係を明らかにするため、リン流入の入り口となるリン酸トランスポーターの活性調節機構の解明とその下流に生じる生体内シグナル伝達機構を明らかにし、生活習慣病との関連について検討することを目的とする。本年度は、(1)リン代謝調節機構と他の栄養素代謝との相互作用および(2)ヒトおよび動物における食後高リン血症の病態解析について検討を行った。その結果、(1)についてに、リン代謝がコレステロール代謝に影響を及ぼすことを見出した。また、リンシグナルの網羅的な解析たより、従来のAkt/PKBを介した経路に加え、ERKを介したシグナル伝達経路も活性化することが明らかとなった。一方、(2)については、モデル動物および健常者を対象として食後高リン血症を示すモデルを作成し血管内皮機能に及ぼす影響について検討した。その結果、ラットにおいて血清リン濃度の増加により血管内皮機能が低下することを見出した。また、ヒトにおいて高リン食(1200mg/食)を単回投与すると、食後2時間で血清リン濃度の上昇に伴い血管内皮機能の指標であるFlow-mediated dilation(FMD)が低下することを見出した。これらのメカニズムには、リンシグナルを介した酸化ストレスならびに一酸化窒素産生系の抑制作用が関わると考えられた。以上のことから、食後高リン血症は、血管機能を低下させ、心血管疾患のリスクとなる新たな要因と考えられた。
|