LCAの概念が国際的に普及した現在において、中国、韓国、台湾においてLCAデータベースの開発に向けた検討が行われているが、これらはいずれもインベントリ分析のみであり、影響評価は未着手の状況である。本研究では、我が国で開発されたLCIA手法を基礎としつつ、海外での環境負荷による環境影響を適切に評価できるアジア版のLCIA手法を開発し、その有用性について事例研究を通じて検証することで、上記課題の解決を図ることを目標とする。本年度は、アジア各国におけるLCIA用評価係数を算定することができるソフトウェア(評価係数算定プログラム)を開発するための検討を行う。アジア諸国で影響が深刻であり、かつ、地域差が大きいと考えられる都市域大気汚染、酸性化、有害化学物質を対象影響領域として選択した。本プログラムでは、環境負荷から濃度を計算し(運命分析)、濃度から暴露量を求め(暴露評価)、暴露量に応じたリスクおよび潜在被害量の増分を推定し(被害評価)、被害量を人間健康や生物多様性といったエンドポイントレベルに集約し(影響評価)、最後にこれらのエンドポイント間の重み付けにより単一指標化(統合化)を行う。 食生活などのライフスタイルが異なれば環境負荷物質の暴露量も異なる。また、障害の種類が同じでも医療の水準により失われる余命は異なる。さらに、絶滅危惧種の生息状況、気温や土壌の環境条件、開発の程度によって生物種の絶滅リスクは異なる。LCIAの評価では、これらの条件の差異をパラメータに反映させる。本研究では開発初年度として、これらの基礎資料の整備状況について調査した。環境条件、気象条件、社会経済状況などの統計資料は比較的揃えることができた一方で、評価モデルは不足していたことから、LIMEにおいて採用する運命分析モデル等を併用することでアジア各国の評価に資する手法開発の可能性を見出すことができた。 今後は、これらのデータとモデルを活用した特定の国を対象とした評価手法のプロトタイプを作成し、被害係数の開発を行うと同時に、当該係数の妥当性について事例研究や既存の手法との比較により検証していく予定である。
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