本研究の目的は、固体中の集団スピンの集団性を利用した新しい量子計算手法の提案とその物理現象の解明である。量子力学的重ね合わせ状態(コヒーレント状態)と超並列性を利用した量子計算の最小基本単位は、1量子ビットであるが、ほとんどすべての系において、単一量子のコヒーレント状態を、1量子ビットとした研究が行われているが、集積化に有利と考えられる固体素子の分野では、単一電子スピンや、単一核スピン等をコヒーレントに制御検出すること自体が技術的に難しいため、2量子ビットを作ることは、いずれの系でも実現されていない。これまでほとんどの系で単一量子の制御を目指して研究が行われてきたが、最近、原子分光の分野で、10^<8-12>個程度のマクロな数の原子集団のスピンを1量子ビットとする試みが進んできた。本申請では、このような集団量子の特性を生かした新たなアーキテクチャを持った固体量子計算を提案し、実現を目指すことを目的とする。 本年度は、実際のデバイスと測定装置を作製し、超微細相互作用によって、「集団スピンと電子スピン」、あるいは、「集団スピンと光の偏光」をエンタングルさせることを目標として研究をすすめてきた。測定用試料の作成では、半導体ウエハをフォトリソグラフィー、電子ビーム描画装置などを使って、ナノ構造に加工し、半導体核スピンを電流によって偏極できる試料の作製を行った。測定装置の立ち上げとしては、波長可変のレーザを購入し、半導体からの発光を観測することによって、量子構造と試料の品質の評価を行った。現在のところ20ミリケルビン程度の極低温で光学測定、電気測定を行う実験設備は整ったため、試料のパラメタの最適化を図っている段階である。
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