(1) セスキテルペン類似低分子群の設計と多様性指向型合成戦略:Ca^<2+>-ATPaseを阻害するアルテミシニン、トランスタガノライド類が三環性の縮環骨格を共有することに着目し、この三環性骨格を構造モチーフとして天然物類似化合物ライブラリーを設計した。縮環様式を系統的に改変するアプローチを採用し、高酸化型セスキテルペンに類似した低分子群の三次元構造の多様性を創出しようと考えた。シクロヘキサンの三連続炭素にそれぞれビィルディングブロック(A-C)を連結する。ここでは骨格形成に必要な官能基を導入しながら、立体化学の異なる環化前駆体(三種類)を合成する。次に分子内の官能基同士を連結する環化反応(オレフィンメタセシス)で、標的とした三環性骨格群をそれぞれ構築する。更に、骨格構築の際に組み込んだ官能基(共役ジエン)を足掛かりにエンドペルオキシドやその等価体を導入し、構造の複雑性と酸化度を向上させた高酸化型セスキテルペン類似低分子群を迅速(<7工程)に構築する合成戦略を考案した。 また、数多くのセスキテルペンにみられるアズレン型母骨格に対して、sp^3混成の縮環部を連続的に複数構築し、複雑なトポロジーの多環式天然物類似低分子群を合成する新規プロセスの開発を立案した。 (2) 抗感染症活性物質のスクリーニング:エンドペルオキシドを有するアルテミシニンは、現在最も治療効果の高い抗マラリア剤である。合成したアナログ群については、国内共同研究で抗マラリア活性試験を実施する。また、アルテミシニンやアンセキュラリン等のセスキテルペンラクトンが抗トリパノソーマ活性を有することが報告されている。アンセキュラリンはジエンを有する三環性骨格で構成され、本研究で合成する三環性ジエン群と構造類似性が高い。これらを踏まえながら、抗原虫活性と天然物類似低分子群の構造との相関を可能な限り系統的に調査する。分子構造を規定する骨格や立体化学等を指標としながら、抗感染症活性物質を最適化し、有望なリード化合物の創製を目指す。
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