本研究では、独自に開発した"高速アザ電子環状反応"による迅速修飾法を用いて、水中での生体分子アミノ基選択的な高速放射線標識化法を開発した後、これを用いて極微量の貴重なペプチド、タンパク質、およびモノクロナール抗体のリジン残基選択的修飾によるPETイメージング、さらにはこれまで単糖を除いてほとんど例のない糖鎖のPETイメージングを実施することを目的とする。平成19年度は、主にペプチドやタンパク質の短寿命放射線金属標識化によるPETイメージング、およびMRIおよび蛍光イメージング法への展開を目指して検討を行った。 すなわち、まず標識プロープの効率的合成法を確立すべく、Melda1/Sharplessのクリック反応や18F-Bアート錯体などを活用した様々な合成法を検討した結果、最終的に Stille カップリングを鍵反応とした新規合成法を開発した。その後、ソマトスタチンなどのペプチド、またはTNF-αやTGF-β3などの極微量サイトカインに対して、短時間(10〜30分)、10^<-8>Mの濃度(サンプル量:〜100ng)でほぼ定量的にDOTA標識することに成功した。さらに抗EGFR抗体に対しても同様にDOTAリガンドで標識を施し、放射性金属核種として68Gaを導入した後、マウスに移植した癌細胞を標的としたPETイメージングを行った。その結果、マウス血中内では、抗EGFR抗体の素早い分解が見られたものの、癌組織における集積を観察することに成功した。 一方、DOTA配位子はMRIによるイメージングの配位子としてもよく利用されていることから、生体高分子に対する同手法を用いた希土類金属の導入を検討した。その結果、まず当該プローブに対してGd(III)を導入した後、酸化、リジン残基への電子環状反応を経て、生体分子を一挙に標識化することに成功した。一方、同様の手法を用いて、蛍光基を導入したプローブの開発とそのリジン残基への高速・低濃度での標識化にも成功し、高速アザ電子環状反応による標識化法を一般化させた。
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