(1)本年度においては、2009年度に回収したドイツの司法補助官に対する質問票調査のデータ分析をさらに進めた。その結果、職業意識・職務遂行の上で裁判官とは別個独立の司法機関である点が重視されていることに加え、キャリア形成の面でも日本の書記官とは大きく異なることが明らかになった。裁判所・部署間の異動が少なく、「○○裁判所の誰某」という意識が強いという面接調査での知見が裏付けられた。また、専門分野間の異動も数年に一度程度と比較的少なく、専門分化が明らかになった。 (2)ドイツの司法補助官に対する質問票調査のデータ分析から、手続開始決定を裁判官が担い、開始後の手続を司法補助官が担う倒産手続(Insolvenzverfahren)でも、司法補助官が裁判官への相談を考えることがごくまれにしかなく、日本の倒産手続での裁判官と書記官のチームワークによる事件処理とは対照的であると思われる。日本の倒産手続で、裁判官の裁量で書記官にどの程度の権限・役割が与えられているかを、さらに客観的に明らかにするため、倒産手続担当書記官との面接調査を計画していた。しかし、準備の遅れから本調査を実施することができなかった。ただし、調査予定地の弁護士に対する予備面接調査で、計画段階に想定していた実務の運用が変更されていることが明らかになり面接調査の計画を修正することができた。当初計画では、民事再生手続で監督委員を用いる場合と比較して、裁判所自らが再生債務者の監督に当たる場合は、書記官の役割が大きくなると想定し、監督委員を原則用いないと報告されていた札幌地方裁判所を面接調査の重点対象としていた。しかし、予備面接調査で、近時は同裁判所でも監督委員の利用が常態化していることが明らかになった。
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