本課題におけるおもな研究対象は、大都市郊外の暴動というかたちで噴出したフランス社会のポスト植民地主義的な構造と、その共和主義に特有の政教分離の形態である非宗教性のあいだの相関関係の分析である。まず初年度(平成19年度)においては、イスラム教徒女生徒の公立学校におけるスカーフ着用問題をとりあげた。この初年度の研究では、フランスの共和主義を特徴づける非宗教性(ライシテ)と、移民2世、3世のムスリムの若者のコンフリクト、そしてポストコロニアル期にあるフランス社会におけるこうした問題をめぐる認識のありようが、主要な検討課題であった。この研究テーマについては雑誌『異文化』に所載のフランス語論文を書いた(後述ll.を参照)。またグローバル化時代の植民地主義の主題については、2007年9月に立命館大学先端総合学術研究科の西川長夫教授をお招きして、著書『<新>植民地主義論グローバル化時代の植民地主義を問う』(平凡社、2006年)に関する合評会を本学で開催した。その際にはまた、本学で「社会思想」などを担当している洪貴義氏、また来年度以降中国・汕頭大学法学院教員として着任が決まっている一橋大学大学院社会学研究科研究員・許寿童氏のお二人をコメンテーターにお願いし、アジア、中南米、ヨーロッパ、そして北米というきわめてグローバルな視角から本研究課題について討論をおこなうことができた。また夏季におけるフランス・ノルマンディのIMECにおけるアルチュセールに関する資料収集は、本来の目的を達成できたのみならず、旧修道院の建物というアット・ホームな雰囲気もあいまって、研究者間の多国籍のネットワークを生み出すうえでも副次的な効果があった。
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