本課題は、2005年に大都市郊外の暴動というかたちで噴出したフランス社会のポスト植民地主義的な構造と、その共和主義に特有の政教分離の形態である非宗教性のあいだの相関関係について分析を行うことを、その全体的な目的としている。この目的に鑑み、最終年度にあたる平成22年度にはつぎのような研究をおこなった。まず「越境するシティズンシップとポスト植民地主義」のテーマのもと、フランスを中心としたヨーロッパにおけるシティズンシップと、いわゆる移民として認識されているかつての植民地出自の人びとのプレゼンスの関係をめぐる論文を公刊した。この論文では、シティズンシップという理念およびその実践のヨーロッパにおける変遷を踏まえつつ、現下のヨーロッパ外から到来する人びとにたいする排除の問題をも扱っている。2011年初頭に起こったチュニジア革命、そしてそれを受けたランペドゥーザ島への避難民の殺到、そしてこれら避難民に対する伊、仏、EUによる(人権問題をはらんでいる)対処のあり方は、本課題の扱うヨーロッパ/非ヨーロッパという対比にもとづく市民権の構造を研究することが、喫緊の政策的課題に結びつくものであることを改めて示している。つぎに、イスラム教徒女性のスカーフ(ヒジャブ)の問題を、ジェンダーの観点等から分析した論文を公刊した。このヒジャブの問題は、今後さらに分析していく予定である(フランスを含めた欧米でのヒジャブやブルカの禁止法制の問題がきわめて重要な問題になってきている)。また、EUレベルにおける国境管理および庇護申請者の扱いについての資料調査を進めた。さらに、フランス・ポワチエ大学における学会報告を行った。そして、フランスの移民史の代表的著作のひとつである、ジェラール・ノワリエル『フランスの「るつぼ」』の訳出作業を進めた。この作業では、外部の研究者を招へいしつつ、翻訳すべき膨大な量の情報をどう扱っていくかについての検討も進めた。
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