本年度は、TES (Transition Edge Sensor)ボロメータの光学的な吸収効率の最適化、SQUID(超伝導量子干渉計)を用いた読み出し系の確立とこれを用いた周波数分割マルチプレクス(多重画素同時)読み出し方式の実現を重点的に行った。TESボロメータの性能として重要な周波数バンド内での輻射の吸収効率を最大にするため、光学的なカップリングの最適化を行った。特に、輻射の吸収を行う吸収体の構造スケールとインピーダンスとがトレードオフの関係にあるため、ボロメータ製作プロセスの許す範囲内で理論的にパラメータを絞込んだ上で、有限要素法を用いた詳細な電磁界数値シミュレーション行って最適解を探索した。これによって、従来と比べて吸収効率を10%以上改善することに成功した。SQUIDを用いた読み出し系は、これまでに行った磁場環境の確立に加えて、安定した温度環境と低ノイズな配線環境を整えた。さらに、これをTESボロメータとつなぎ合わせて、TESボロメータからの信号の安定な読み出しを実現するに至った。次に、SQUID読み出し回路の詳細な周波数特性の評価を行った上で、TESボロメータの各画素をそれぞれ異なる周波数の交流電流で駆動して変調・復調を行う周波数分割読み出し方式ができるものであることを確認した。最終的に、このSQUID読み出し系と試作TESボロメータアレイを組み合わせ、1つのSQUID素子で8画素を読み出す8画素マルチプレクス読み出しを実現した。
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