本研究では、欧州原子核研究機構で準備中のアトラス実験において、質量の起源と考えられているヒッグス粒子の探索と、bクォークの湯川結合定数の測定を目指している。ヒッグスの崩壊モードとしてH->bbを使うので、bクォーク起源のジェット(=bジェット)を効率良く同定することが実験成否の鍵を握る。同時に、bジェット同定の効率、誤認確率の評価が解析における要であるが、ハドロン衝突型実験では性能評価のためのコントロールサンプル作成が困難なため、モンテカルロシミュレーション(MC)に頼らざるをえない。そこで、なるべくMCに頼らずにすむ新しい性能評価方法の開発を行った。MCデータを用い、測定が原理的に可能であることを示した。また、年度を跨いでの繰り越し研究によって、測定に使用する変数の取捨選択、最適化等を行うことができた。 本研究で使用するqqH(->bb)あるいはbbA(->bb)過程にはトリガーロジック構築に使われる孤立レプトンが存在しないため、有効なトリガー構築が解析で重要である。MCデータを用いて、bハドロン崩壊によるレプトンを検出することによって、bbA(->bb)過程をトリガーできるか調べ、十分トリガー可能であることを示した。さらに繰り越しによって、トリガーレートをMCから調べることができた。 本研究で重要な役割を果たす検出器は、シリコンピクセル及びストリップ検出器である。そこで、シリコンストリップ検出器のモニタリングシステムの開発、動作テストなどを行った。また、次世代シリコン半導体検出器としてSilicon On Insulator(SOI)と呼ばれる技術を用いた検出器開発も行っている。現在ビームテストに向けて、信号の読み出しシステムの開発その他の準備を行っている。
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